しばしば耳にする言葉、「お客様のために」。

この言葉はあまり良い言葉ではありません。と言うのも、いくら「お客様のために」と豪語したところで、結局お客さんからお金を受け取るのですから。本気で「お客様のために」と思うならば、お金を全て自分の給料から立て替えれば良いし、お客さんのために家財も家も全部売り払えば良いのです。

当然、そんなこと出来る筈もありません。つまりどれだけ「お客様のために」と叫んでも、結局自分の給料のため、自分の会社のためでしか無いのです。そういった綺麗事を抜きにして、どう考えるべきなのでしょうか。

大切なのは、会社の理念の実践です。企業理念に基づいて物事を考え、その上で「どうすればお客さんが満足を感じて下さるか」を必死になって考えるべきなのです。

ちなみに弊社では基本的に「お客様」と言う表現は使わず、「お客さん」と呼びます。「さん」と言うのはそもそも宮言葉が発祥で、親しい人につけた敬称なのです。「様」と言うのは「さん」からうまれた派生語であり、しかも「様」で「さん」と読んでいた時代もあったそうな。そのため、少しでも風雅な言葉を使いたいと言う理由で「お客さん」と親しみを込めて呼ばせて頂いています。

満足や感動と言うのは、接客者が主体になってお客さんに与える物でもなければ、お客さんに感じさせるものでもありません。満足・感動はあくまでも「お客さんが感じる」ものであって、お客さん主体なのです。つまり「感動の接客を」と言う言葉は、飽くまでも売り手の自己満足に他ならないと言う事を忘れてはいけません。

タイトルにある「気持ちを動かす接客」と言うのは、もうおわかりでしょうが、実はそういった潮流に対する皮肉でもあります。むしろ接客者側が無理にお客さんの気持ちを動かそうとすると、お客さんはかえって引いてしまうケースも多々あります。と言うか、そういう接客やサービスと言うのは、得てして陳腐化されがち。

接客をする上で最も大切な心構えは、売り手と買い手の気持ちが一つになること、すなわち「主客同一」を実現する事です。主客同一とはそもそも茶の湯の考え方ですが、これは千利休が唱えたもてなし哲学の究極の一つでもあります。

主客同一がどのような物かと言うと、ヨガの瞑想ではありませんが、本当に主客の心が解け合うような感触を味わう事です。ヨガの場合、インストラクターと向かい合って同じポーズを取り、臨床心理学で言うところのラポール形成を1時間ほどかけてたっぷり行うので、インストラクターと心が融和してくような不思議な感覚を味わうと聞きます。茶の湯の場合、主客で立場や行う事が全く異なるにも関わらず、本気で心を解け合わせることが出来ます。接客でもやはり、それを一つの頂点にするべきでしょう。

そこまで行けば、自動的にお客さんの気持ちは動きます。感動が発生します。これぞ正しく「感動の接客」と言えるでしょう。しかしそれを実現するには、余程自分自身を磨き、修練を積み重ねなくてはいけません。

そしてその修練を積み重ねるには、まず「考え方」が変わらなくてはいけません。商品は「売る物」ではなく、「買われる物」であると言う発想を心底理解しなくてはいけませんし、お客さんを喜ばせるのではなくてお客さんに喜んで頂く、と言う発想を持たなくてはいけません。

ほんの僅かでも「今日の売上が…あともう一点売れれば」と考えてしまった時点で、もうアウトです。「今日の売上が…あともう一点“お買い上げ頂ければ”」であればOKです。そしてそういった発想が、接客者一人一人の心に根ざしてなくてはいけないのです。

接客に置ける「もてなし」の考え方は、歴史的に茶の湯から派生したサブカルチャー、こと派生文化です。考えかたのヒントを茶の湯に求めれば、おのずと理解出来るようになります。そしてその茶の湯の発想でいけば、「気持ちを動かす接客」とはすなわち、「お客さんが勝手に、自らの意志で喜ぶ接客」なのです。接客者の意志でお客さんを喜ばせるような、厚かましい真似をするものではありません。

たとえばリッツ○ール○ンホテルの接客を見て下さい。確かに優れた接客をしているように見えます。ですが私の目から見ると、これ見よがしな接客が余りにも多すぎる。悪い事とは言いませんが、お客さんもすぐに舌が肥えてくるので、それだけでは満足しなくなってきます。

その真逆で、皆さんが日常通われている、お気に入りのお店のことを思い出して下さい。舌が肥えることなく、常に楽しい思いをしていることでしょう。別に新鮮味があるわけでもないのに、なぜか足を運んでしまう。接客者が本当に狙うべきは、そこなのです。

前出のホテルのような接客は、たまに体験するにはもってこいでしょう。ですが、毎度毎度となると少々しつこく感じてしまいます。その反面、日常通われているお店の接客は、特に目立ったところは無くても、どうも信頼出来るものを感じられます。

接客と言うのは、そうやって信頼を積み重ねていく仕事でもあります。無理に「感動の接客」や「気持ちを動かす接客」を狙っていく必要は、全く無いのです。むしろそれをすれば、接客者は疲れ、お客さんには飽きられてしまいます。

御社の接客はどちらに傾いているでしょう?本当の意味で信頼を積み重ねていく接客になっていますか?